タイロゲンを使用する患者さんへタイロゲンを使用する患者さんへ

タイロゲンとは

タイロゲン〔ヒトチロトロピン アルファ(遺伝子組換え)〕は、からだの中でつくられる甲状腺刺激ホルモン(TSH)と同じ働きをする薬剤です。

タイロゲンをアブレーションや検査に用いるメリット

甲状腺がんで甲状腺をすべて摘出する手術を行ったあとには、わずかに残った甲状腺を完全に取り除くための放射線による治療(アブレーション)や、再発や転移を調べるための放射性ヨウ素を使った定期検査を行うことがあります。

アブレーションや検査の際には、治療の効果や検査の精度を高めるため、からだに残った甲状腺がん細胞に放射性ヨウ素を取り込ませる必要があります。そのためには、からだの中の甲状腺刺激ホルモンを増やしておく必要があります。現在は、甲状腺ホルモン薬を一時的に中断する方法と、甲状腺ホルモン薬を中断せずにタイロゲンを用いる方法があります。

甲状腺ホルモン薬を一時的に中断する場合は、(からだの中に甲状腺ホルモンがなくなってしまうことによる)甲状腺機能低下症のさまざまなつらい症状を我慢する必要があるという問題があります。
タイロゲンを用いる方法では、甲状腺ホルモン薬を中断せず、からだの中に甲状腺ホルモンがある状態でアブレーションや検査を行うことができるというメリットがあります。
*放射性ヨウ素を使った定期検査

タイロゲンを用いるメリットとデメリット

メリット デメリット
  • 甲状腺機能低下症があらわれません
  • 検査や治療までの準備が簡単になります
  • 薬の費用がかかります注)

注)自己負担として約6万円かかりますが、高額療養費制度の利用や、年齢によってこの金額は低くなる可能性があります。

用語解説

転移
がんが、最初にできたところから別の臓器、器官に広がること
放射性ヨウ素
放射線を出すヨウ素で、131Iなどがある
ヨウ素
主に海藻類に含まれる物質。からだの中では甲状腺細胞のみが取り込むことができ、甲状腺ホルモンの材料となる

タイロゲンによるアブレーション

アブレーション(残存甲状腺組織の破壊)について

甲状腺がんの治療は手術が基本となりますが、手術で甲状腺を取り除いても、微量の甲状腺組織がのどに残っていることがあります。手術後に、放射性ヨウ素を内服して甲状腺組織に取り込ませ放射線をあてることで、この残っている甲状腺組織を攻撃して取り除く治療法をアブレーションと言います。

放射性ヨウ素を十分に甲状腺組織に取り込ませるためには、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を増やす必要があり、タイロゲンを用いることで甲状腺ホルモン薬の服用を中断せずにTSHを増やすことができます。

タイロゲンを用いたアブレーションのスケジュール

放射性ヨウ素カプセルを服用する前々日、前日の2回、タイロゲンをおしりの筋肉に注射します。なお、体内に自然にあるヨウ素は放射性ヨウ素の甲状腺組織への取り込みを邪魔するため、アブレーションを行う約2週間前からヨウ素を含む食品(主にコンブ、ひじき、ワカメ、海苔などの海藻類)を食べないようにする必要があります。

タイロゲンを用いたアブレーションのスケジュール

治療後の経過観察

アブレーションによって、がんの再発や転移の危険性は低くなりますが、全く心配がなくなるわけではありません。アブレーションを受けた数ヵ月後には、その治療効果を確かめるために、シンチグラフィという画像検査やサイログロブリン(Tg)を測定する血液検査などを行います。これらの検査はその後も定期的に行われます。定期検査を行う間隔については、主治医と相談の上、その指示に従ってください。また定期検査による経過の観察は、手術後、長期間にわたって実施することが望ましいとされています。

用語解説

転移
がんが、最初にできたところから別の臓器、器官に広がること
放射性ヨウ素
放射線を出すヨウ素で、131Iなどがある
ヨウ素
主に海藻類に含まれる物質。からだの中では甲状腺細胞のみが取り込むことができ、甲状腺ホルモンの材料となる
サイログロブリン
甲状腺細胞から分泌されるたんぱく質

タイロゲンの安全性情報

タイロゲンの主な副作用

海外で行われた臨床試験で、タイロゲンの注射により以下のような副作用が報告されています。気になる症状がある時は医師に相談してください。

タイロゲンの主な副作用

タイロゲンを用いた
アブレーション時の主な副作用
タイロゲンを用いた
検査時の主な副作用
  • 悪心(おしん:気持ちが悪くなること) 11.3%
  • 疲労 8.1%
  • 味覚消失 4.8%
  • 骨痛(こつつう) 4.8%

など

  • 悪心(おしん:気持ちが悪くなること) 11.0%
  • 頭痛 6.7%
  • 無力症 3.1%
  • めまい 2.1%

など

注意

タイロゲンの投与により、重篤な(じゅうとく:生命に危険が及ぶような)過敏症状が起こることがまれにあります。具体的には、じんましん、発疹(ほっしん:湿疹のこと)、そう痒(よう)感(かゆみのこと)、紅潮(こうちょう:血がのぼって皮膚が赤くなること)、呼吸困難などがあらわれることがあります。

注射後、からだの調子が悪くなった場合は、注射をした医療機関にすぐに連絡してください。その上で、医師の指示に従ってください。

ホルモン休薬法について

ホルモン休薬法による影響

タイロゲンを使用せずにアブレーション治療や放射性ヨウ素を用いた検査を行う場合には、放射性ヨウ素カプセル服用の2週間以上前から、服用している甲状腺ホルモン薬を中断します。

甲状腺ホルモン薬の服用を一時中断すると、皮膚乾燥、疲労感、むくみ、寒気、体重増加、食欲の低下、うつ症状、無気力といったさまざまな症状(甲状腺機能低下症状)があらわれることがあります。

さらに甲状腺ホルモン薬の一時中断は、患者さんの腎臓の働きにも悪影響を与えるため、服用した放射性ヨウ素カプセルに含まれる放射性物質の排出が正常な時と比べて遅くなります。

以上のことから、最近では、ホルモン休薬法の問題を解決できるタイロゲンが、アブレーション治療や手術後の検査の選択肢に加わりました。

用語解説

放射性ヨウ素
放射線を出すヨウ素で、131Iなどがある
ヨウ素
主に海藻類に含まれる物質。からだの中では甲状腺細胞のみが取り込むことができ、甲状腺ホルモンの材料となる

ヨウ素を含む食事の制限

ヨウ素制限の重要性

正常な甲状腺や甲状腺がんの組織には、ヨウ素を取り込む性質があります。放射性ヨウ素を用いた検査や治療は、この性質を利用したものです。

甲状腺の組織に放射性ヨウ素を多く取り込ませるためには、からだの中のヨウ素をできるだけ少なくして、甲状腺組織をヨウ素に飢えた状態にする必要があります。

からだの中のヨウ素が十分に減少していない場合、放射性ヨウ素が甲状腺組織に十分に取り込まれず、検査の精度や治療の効果が下がってしまうおそれがあります。そのため、ヨウ素を含む食事の制限はしっかりと守らなければいけません。

特に日本は、ヨウ素の多い海藻や海産物、コンブだしを使用した食品が多く、ヨウ素を制限した食事が難しい国の1つです。そのため、主治医や栄養士の指導の下、きちんと管理を行っていく必要があります。

ヨウ素が含まれる食物
  • コンブ、ひじき、ワカメ、海苔などの海藻類
  • かつお、さば、まぐろなどの魚類
  • コンブだし、寒天を使用したゼリー、ヨーグルト
  • 海産の塩

用語解説

ヨウ素
主に海藻類に含まれる物質。からだの中では甲状腺細胞のみが取り込むことができ、甲状腺ホルモンの材料となる
放射性ヨウ素
放射線を出すヨウ素で、131Iなどがある

海外での治療方針

日本と海外での治療方針の違い

甲状腺がんの治療は手術が基本とされています。これは日本でも海外でも同じです。しかし、手術方法の選択に少し違いがあります。

例えば、乳頭がんの場合、日本では、がんの広がりをさまざまな検査で調べ、それに応じて、甲状腺の片方の部分を取り除く葉切除術(ようせつじょじゅつ)、あるいは甲状腺の2/3以上を取り除く亜全摘術(あぜんてきじゅつ)により、なるべく甲状腺を残すように手術方法の検討がなされています。これは日本で発展してきた甲状腺がんの治療方針です。

一方、米国や欧州では、悪性度の低い分化型のがん、例えば、乳頭がんや濾胞(ろほう)がんの場合でも、ほとんどの患者さんで甲状腺をすべて取り除く全摘術(ぜんてきじゅつ)が行われています。

甲状腺をすべて取り除いた後は、甲状腺ホルモン薬をずっと服用する必要がありますが、がんの転移や再発の危険性が低くなるため、この手術方法が選択されているのです。また、再発の危険性をさらに低くするため、アブレーション(残存甲状腺組織の破壊)も積極的に行われています。

海外でのアブレーションの現状

米国や欧州においてアブレーションは、甲状腺をすべて取り除いた患者さんに対する甲状腺がんの再発予防の標準的な治療法の1つとして取り入れられています。

アブレーションには、ホルモン休薬法とタイロゲンを用いたタイロゲン法とがあります。しかし、ホルモン休薬法では甲状腺機能低下症状が生じ、患者さんのQOL(生活の質)を低下させてしまうことが多いため、その代替療法として、タイロゲン法が多く用いられています。

現在、アブレーションにおけるタイロゲンの使用は、アメリカ甲状腺学会のガイドラインや、ヨーロッパの各学会のガイドラインで推奨されています。

用語解説

転移
がんが、最初にできたところから離れた臓器、器官に広がること
ガイドライン
病気の標準的な治療指針が示されたもの